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※隠し通路や隠された情報とかを暴く目を持つ恋は、故に人に引け目や罪悪感があって後ろ暗い事も沢山ある、から自分の事好きじゃない。
そんな自分を知られたくないから、初め雪に「そのメシ味してる?」ってズバッて言った銀君が苦手
昔の話だ。入学前から縁のある和菓子屋でのアルバイトの帰りしな。その日の賃金と綺麗に象られた重菓子を手土産に貰った。余りものだと言っていた。型が崩れて商品にはならんからと包んで渡されたそれに申し訳なさと嬉しさを感じながら、深く礼をして忍術学園へと帰って来た。
量はない。さて誰と食べようか。
上機嫌で部屋の障子を開けたら、何やらしかめ面で机と向き合っている雪之丞を発見した。
珍しいこともあるもんだ。なんだか途方に暮れたようにも見える同室にスパンと後ろ手で障子を閉めた恋之介は、一先ずと雪之丞の傍に腰を下ろした。そして彼の前にそっと菓子を置く。
疲れてるときは甘いものだろう。そんな単純な思考だった。
ちらりと視線を寄越す雪之丞に土産だと軽く笑い、で、どうした?と話を繋ぐ。
視線を恋之介から菓子に移した雪之丞は、それをしげしげと眺め、ぽつりと言葉を落とした。
「味してる?って聞かれた」
「は?」
「その飯、味してんのって。名前は分かんないけど、いつも煩いやつ。二個下の」
そう言って菓子を一口サイズに割るとぱくりと口に運んで租借した。小難しい顔で彩り美しい菓子を食べる雪之丞に恋之介は思わず苦笑した。随分気落ちしている。せっかく機嫌よく帰ってきたのに、同室がこれではそれも下降するというものだ。
雪之丞の前から自分も菓子を一つとり口に放り込んだ。
さらりとした口どけの滑らかさと程よい甘さが広がり、たいそう美味い。これを雪之丞にどう伝えそしてどう慰めようか。
そう思考を働かせる傍らで、恋之介はその名も知らぬ相手にただただ驚いていた。
あの雪の隠されてた本質を見抜くとは。しかも、真っ直ぐ雪に叩きつけてくるとは。
面白い後輩がいた者だと思った。しかしそう思う反面、こうも思ったのも事実だ。
あまり関わりたくはない
自分は暴くものだ。学園に仇をなす存在を。その相手はもちろん背景理由から方法手段、はては因果関係まで。
学園の為なら、嘘も吐くし他人を陥れもする。もちろん仲間を売ることもある。同室の…雪之丞が人を殺し、死にかけるお膳立てをしているのも恋之介だ。
そんな、他のやつらには見せない自分をもしかしたら暴かれるかもしれない。
得意の話術で雪之丞の気を軽くさせながら、そんな後ろめたいことを考えていた。
会ってもいない、名も姿も知らない相手に何をと思う。それでもふっと湧いた疑念を恋之介は忍の勘として心に留めた。
留めて、おいたのに…。
数日後。新たに課せられた任務をこなし、くたくたで隠し通路から帰ってきた恋之介は件の建屋銀ノ進と縁を結ぶことになる。
ぎゅむり、と。
重い足を引きずり曲がったその先で、盛大に寝落ちた銀ノ進を踏んでしまうという冗談のようなほんとの出会いによって。
銀ノ進が雪之丞の言っていた”いつも煩い後輩”だと気付いたのは、彼を銀の字と呼ぶほど親しくなってからだった。
***
そうなるころには、すでにその片鱗に脅えていた。
銀ノ進の無意識に本質を見抜くその感性はずば抜けていた。もし、その感性が己に向けられたのなら。普段暴く側の自分が暴かれるなんて、耐え難い恐怖と絶望で。
そう思い、勝手にも銀ノ進に一方的な畏怖を抱いてた。
そして、それをひたすら隠していい先輩を演じていた。
素直で無邪気なその後輩が、こんな自分に一心に懐いてくれている。その事実が、純粋に嬉しかったのだ。
多分、銀ノ進も無意識にそんな恋之介の抵抗に気付いてた。そして、触れるなと引かれた境界に気付いてる事に、恋之介も気付いていた。その上で無意識に甘えていた。触れられる事はないと甘え、そんな弱さから目を逸らしてた。だから油断したのだ。
一瞬だけ現れた仕事の顔に、銀ノ進がさくりと言葉を刺した。
「とーまんは何を見てんの?」
何気ない会話にするりと挿入された疑問に、今までの穏やかな空気は一瞬でその温度を下げた。
驚き恐怖した視線が、銀ノ進の真っ直ぐな視線に絡んで逸らせなくなる。
抽象的な問いだ。いくらでも誤魔化せる。なのに喉が張り付いたように声が出なかった。
戦慄く唇がそれでもなんとか言葉を紡ごうと、はくはくと開閉を繰り返す。
嘘じゃなくていい。何の話だと有耶無耶にするだけでいいんだ。それだけなのに…。
そうしたら、今自分を見てる銀ノ進の真っ直ぐな瞳が逸らされてしまう気がしたのだ。
恋之介の誤魔化しに気付いて。暴かれる恐怖に怯え逃げ出した弱虫を、嫌悪し侮蔑しそして見限って。
……それが卑しくも嫌だと思った。とても。そう、心の底から。
銀ノ進を失うのは嫌だ
そう自覚したと同時に、驚き固まっていた恋之介の表情はくしゃりと歪んだ。内に秘められた感情が一瞬で吐露され、即座にそれに絶望し、悲嘆し、理解を拒んで混乱した。
そして、知らず縋るような視線を送ってしまったのだろう。改めて見た年下の彼は驚いた顔をしていた。
***
授業も終わり夕飯までのゆるりとした時間。惰眠を貪ろうと校庭の隅でまどろんでいた恋之介の元に、ひょいひょいとやってきたのが銀ノ進だった。
恋之介は気配を消すことはしない。しかし、その場の空気にひっそりと溶け込んでしまう為、気配を消されるより余程探すのが困難だとよく愚痴をこぼされる。
勿論、それは仮眠を取ろうと寝転んでいるときも活用されており、恋之介が察して合図を送るでもしない限りチートと呼ばれるあの二人以外はそうそう見つけられないだろう。
それをあっさりと看破してやってくるのがこの二個下の銀ノ進だ。曰くとーまんが居る気がしたら居る、らしい。そんな馬鹿なと思うが実際に恋之介の元へやってきているのだから、いやはや動物的勘の持ち主は恐ろしい。
まあ、恋之介もそんな銀ノ進が纏う昼の空気を好ましく思っている為、たとえ貴重な睡眠時間内の訪問でも大歓迎だった。だから、銀ノ進との遭遇を嫌だと思ったことは一度もない。
閑話休題。
そんなわけで本日もあっさりと発見された恋之介は、穏やかな青の上を泳ぐ白い雲を眺めながらまったりと銀ノ進と話していた。声が大きいとよく怒られるらしいが、あの暴君七松小平太を同級に持つ恋之介には、元気が良くていいなと思う程度だ。
それで善ちゃんが、菊がとぽんぽん飛び出す話題に笑いながら相槌を打っていたら、視界の端に不審な影を見つけた。
その一瞬だ。わずかに覗かせた仕事(うら)の顔に、恋之介を見ていた銀ノ進はさくりとそのセリフを放った。多分、彼も無意識に。今まで触れないようにと目を逸らしていたのに、無防備にもそれを目前に晒されて、鍵をかけて封じていたその疑問がぼろりと零れ落ちてしまったのだろう。
あ、と言葉が続いて漏れたが、すでにそれを聞いてしまった恋之介には何の慰めにもならなかった。
ただ、どうしていいのか分からなかった。
分からなくて、その混乱を与えた相手に助けを求めてしまった。年上だというのに情けない。迷い子のような視線を送られて、銀ノ進はたいそう困惑しただろう。
驚いた顔を見ながら、終わった、とどうしようもなく途方に暮れた。暴かれて、終いだと。
あの日の雪も、こんな感じで途方に暮れていたのだろうか…。
もう見ていられないとおずおずと下げた視線を、しかしぐいと強い力で元の位置に引き戻された。
銀ノ進の両手が恋之介の顔を挟んで固定している。慌てて掴んだのか、髪の毛がぐしゃりと乱れた。
その両の手の間でぽかんと間抜け顔を晒す恋之介に、銀ノ進は一言ごめんと叩きつけた。
「ごめん、とーまん!俺そんな顔させるつもりなくてっ!」
(そんな顔ってどんなだよ)
「さっきのも、あの、ついうっかりていうか言葉のあやっていうか」
(言葉の綾って、使い方違うぞ…)
「だから、そのっ他意はないから…!」
俺の事嫌いにならないで!
切々と願われた言葉に鈍器で頭を殴られた気がした。
何を言っているんだと。そんな事あり得るはずないじゃないか。
むしろ嫌うのは…
「それは、銀の字。おまえだろう?」
言ったが最後、話すつもりもなければ聞かせることもない筈だった胸の内をぼろぼろと吐き出していた。
嫌うわけないと。嫌われるのは俺だと。
何をと問うたな。うすうす気づいているとは思うが、俺が見ているのは他人の隠している内側だ。
俺は平気でその領域に土足で踏み込む。それを暴きにかかる。
そのためだったら酷い嘘も吐くし躊躇わず陥れる。必要と有らば、おまえより幼い子供を使うし、―――殺したこともある。
…理由なんてねぇよ。ただそういうことが気になる性質で、良くも悪くもそれを知るための能力が備わってただけだ。
幻滅しただろ…。こんな、他人の隠し事を暴きまわるような人間…。最低だ。
ここまで一気に言い放ったら、額にゴンッと不意打ちの攻撃を受けた。
「…っぅ!」
「とーまんのばか!あほ!!」
「なっ!?」
「俺、とーまんの事すきだよ!!」
は、と開いた口から息が零れた。額の痛みが一瞬で消え去った。
「とーまんはいつも俺のこと構ってくれるし助けてくれる。でかい声出しても途中で寝落ちても笑って許してくれる。嘘だって酷い嘘は吐かれたことないし、陥れられたことなんて一回もないよ!」
「それはおまえが」
「そ、れ、に!隠し事をあばけるなんて忍としては最高じゃん!おんみつには必要なスキルなんだろ?殺しだって、殺したくて殺したわけじゃないんだし暴く理由もある」
「っ!そんな事おまえに分かるわけ…!!」
「わかるよ」
怒鳴りつけた声に、静かな声が重なった。普段聞くことのない、静かに宥めるような響きを含んだ少し高めのアルトに、思わず聞き惚れた。
「わかるよ。だってとーまん。そういうとき、いっつも眉間に皺が寄ってる」
ツラくてなきたいって顔してる。
穏やかに、でも少し困ったような顔をして告げられた第三者からの自分に、二の句が継げられなかった。
愕然とする。まさかと。まさかそんな初歩的な”失敗”を…?
そう考えながらも、今まさに何の策も打てず動揺と困惑をありありと顔に表している恋之介には反論の余地はない。
呆然と銀ノ進を見上げる恋之介に、彼はこつりと額を合わせた。
そのあまりの近さに恋之介は思わず目を瞑った。視界を閉ざした恋之介に、銀ノ進の声が鼓膜を、皮膚を通して柔らかく浸透する。
「だから、とーまんには暴かなきゃいけない理由があるんだと思うし、暴きたくてなんでも暴いてるわけじゃないって俺思う」
そうしてゆるゆると心を絆す。
「それに、それで危険をみぜんに防いだり、困ってそうなら助けてあげてるだろ。でも暴くのいいことじゃないから自分はダメなんだってうんざりしてしょげてるしさ」
「しょげてなんて…」
苦し紛れの言い訳も、軽く笑って流されてしまう。でも、何故だろう。悪い気分ではない。
こんなに。こんなに馬鹿みたいに彼に暴かれているというのに。
許されているようだと、思った。口角が我知らず緩む。
「買いかぶりすぎだ」
「そんなことないよ!俺けっこう人を見る目あるんだぜ!」
今はきっと、あの得意げなどや顔とやらをしているんだろうな。そう思ったら、なんだかその顔を見て見たくなって、ゆっくりと瞼を押し上げた。
だからさ、聞いてよと銀ノ進が催促をする。
ん?と返しながら、開いた視線が近すぎる距離にピントを合わせた。刹那、ゆるりと笑みを浮かべた銀ノ進は至極嬉しそうに囁いた。
「俺、そんなとーまんが好きだ」
人としてだろう。だけれど。
恋之介を全身赤く染めるには、十分は破壊力を持っていた。
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こうして、銀君を見るたびに真っ赤になる今の恋之介が出来上がりましたとさ。
ちゃんちゃん(රωර)✧!
まったりのんびりが粋(`ΘωΘ)
6月5日 誕